アメリカ編~第55日目

12月21日(木)

いよいよテキサスでの業務の最終日。

アメリカ人同僚がコロンバイン高校乱射事件を題材にしたMVを流し、どう思うか聞いてくる。

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「私は銃規制支持派なので…」「あなたはね。知ってる」自分の政治スタンスがバレてた。銃規制反対派の彼女は「銃の管理が徹底されているべきだった」という考えなのだそうだ。未成年が銃を手にできるからこのような事件が起きたのであって、銃所持そのものを規制することは間違っているということだ。一つの理屈ではあるが、先日取り上げたテキサスタワー乱射事件や現在までで最大の死傷者を出したラスベガス銃乱射事件は残念ながら成人による犯行だ。

しかしそもそも、アメリカと同様に銃規制が緩い国でも、ここまで頻繁に乱射事件が起きていないことも確かである。また、乱射事件の犯人のほとんどが男性であることもどう解釈すべきか。自分はもう少し解像度を高めた方がいいのかもしれない。

午後はちょっとしたセレモニー。ここで知り合った各国の同僚とはみなお別れになる。セレモニーでは何人か希望してスピーチを行った。堂々としたものだ。こういうところでなかなか手を上げられない自分はまだまだだと思う。若いころの「当たって砕けろ精神」を思い出したい。

夕方からは日本人同僚の主催でBBQだった。いったん帰って着替え、先日と同様Uberで向かう。着くなり、「JUJUTSU KAISEN」のTシャツ(確かあれ五条悟ってキャラだ)を着たアルバニア人から「とりあえず駆けつけテキーラだ」とショットグラスを渡される。きつー。「さらにラムもいけ」と言われるが「ちょっと待って…」と逃げる。自分はこの日本人の集まりに来てくれと友人のウクライナ人とポーランド人に声をかけていた(マレーシア人にも声をかけていたが体調不良で欠席、おっさんにはよくあることだ)。彼らにちゃんと挨拶をするまではつぶれるわけにはいかない。

JUJUTSUKAISENのアルバニア人はなかなかの強者で、指にはめた赤い指輪をどや顔で見せてくる。

ナルト リング 指輪 暁-www.me.com.kw

(これの黒丸4つのやつ)

ん?わからん、ごめん…と答えたら「は?分からんの??」と呆れられた。NARUTOなんですって。少年漫画あんまりわかんなくてごめんね。先日のヴィンランド・サガ大好きなクウェート人の時にも感じたが、こういうのもまた申し訳ない気持ちになる。おっちゃんゴジラガンダムエヴァならわかるんやけど。

ウクライナ人には死んじゃだめだぞ、と少し真面目に言った。彼らはよく知られている通り戦意旺盛だ。すぐにでも国に戻って戦いたい、と言う。それはわかる。それは崇高で、誰かが危険に身をさらさなきゃいけないし、死ぬ人も出てくる。でも本当に大事なのは生き残ることだ。どんな形であれ、戦後はやってくるのだ。

ウクライナ戦争は2022年2月24日に始まったのではない。ウクライナ人は特に注意深く、その日のことを「Full scale invasion」の開始だと言う。2014年のクリミア占領から戦争は始まっていたのだ。私はあの頃、日本の対露制裁が(対露接近政策を取っていたために)弱腰だったという認識を伝えたが、彼はどこの国も同じだった、と言う。あの時、ロシアに強硬な制裁を行っていれば、こんな戦争にならずに済んだのだろうか。それは誰にもわからない。

ポーランド人ともいろんな意見を交換した。彼らもかなり強い反露意識を持っているのだが、それだけでなくドイツへの潜在的な不信感も根強いものがあった。同じNATOでありながら驚くべきことだが、WW2の記憶が焼き付いているだけではなく、EUでのドイツの振る舞いに対しても不満があるようだ。よく知られている通り、ドイツもメルケル政権下でロシアに融和的だった。「日本と韓国が本格的に協力すれば非常に強力なのではないか」と言うので、「日本と韓国の間には歴史問題が尾を引いている、君たちがドイツと本心から協力できないのと同じだ」と言うと、「なるほど~」となっていた。いや仮にもNATOなんだから「なるほど」ではないが…。

かつてのワルシャワ大公国の話や、カチンの森虐殺(そして慰霊に向かう大統領専用機が墜落した2回目の悲劇)、ゼレンスキーはありゃダメだねという話、ポーランド共和国初代大統領のピウスツキと日本の縁など、いろんな話をした。「しかし君はポーランドのことをよく知っているな」「あぁ、その…Hearts of Ironってゲームがあって、戦略シミュレーションで、1936年から始まるんだけど」「…あー、なるほどね」。「ドイツでプレイすると君たちの国はチュートリアルなんだ」とは言えなかったが、なんか感づかれたかもしれない。またもや恥をさらしてしまった。

乱入してきた酔っ払いのポーランド人の女性が、「私全然英語できなくてェ、もうほんと分かんなくてェ…」と東欧訛りの英語で愚痴ってくる。正直英語ができない他国人は初めて見た。少なくともそれを公言しているのは初めてだ。みんな苦労してるんだな。

それはともかく、今回学んだ一番重要なことはウクライナポーランド美しい国だということだ。晩夏~秋にかけて、もしくは春がいちばんいいらしい(夏は暑いんだって)。妻には相談していないが、ウクライナに平和が訪れたら必ずお勧めされた時期に旅行に行こう。そして彼らと彼らの家族に再会するんだ。必ず。

趣旨としては日本人会だったような気もするが、友人を招いたこともあってほとんど外国人と話していた。だんだん舌が回らなくなり、自分がめちゃくちゃカタカナ英語になっているのを自覚する。今回は意識がはっきりしているうちに退散し、Uberを呼んで帰った。